対談 ひらしん未来座談会

平塚の未来を切り拓こう。

(左端)

平塚信用金庫

営業統括部
地域・経営サポート課

猪股 裕

(左から二番目)

神奈川県信用保証協会

企画部
経営企画課 主任

宇田川 武芳

(右から二番目)

平塚市 産業振興部

産業振興課
企業支援・労政担当 主査

山形 良輔

(右端)

平塚商工会議所

中小企業相談所
経営支援課 経営指導員

齋藤 公平

さまざまな団体・企業と連携して、地域課題を解決できること。それは「ひらしん」の仕事の醍醐味だと言える。平塚市の産業振興を推進する「ひらBiz」は、行政、経済団体、金融機関が手を取り合い、中小企業の経営課題をワンストップで解決する新たな取り組みだ。このチャレンジを牽引するのは、若きワーキンググループメンバーたち。フラットな関係で平塚市の「あるべき姿」の実現に挑む同世代のメンバーたちが、その活動や目標について語り合う。

平塚の未来を考えるワーキンググループ
平塚の未来を考えるワーキンググループ

――まずは、「ひらBiz」について教えてください。

山形 「ひらBiz」は、中小企業の経営者が抱えるさまざまな課題を解決するワンストップの相談窓口です。創業支援、ビジネスマッチング、事業承継、M&A、人材確保、販路拡大など、多様なソリューションを行政、商工会議所、金融機関がタッグを組んで提供しています。

猪股 きっかけは、平塚市が策定した産業振興計画に基づいて、平塚市と平塚信用金庫で「中小企業の経営支援における連携に関する協定」を締結したこと。その後、金融施策や創業支援などを継続的に連携して実施していこうと、平塚商工会議所、神奈川県信用保証協会を加えた4者間での包括協定が締結されたんです。

――行政や経済団体の枠組みに、金融機関が参画することで実効性のある支援が可能になるわけですね。

齋藤 そうですね。ただ、トップダウン主導の取り組みかというと、そうではなくて。この取り組みの実現には、若手メンバーによるワーキンググループの存在が大きかったのですが、この活動はそれ以前から開催されていました。確か、私たちで4代目でしたよね?

宇田川 そうですね。それぞれの機関に所属する若手メンバーたちが、顔の見える関係を築いていって。ゆるやかに、フラットな関係で平塚の未来を考える。それが受け継がれてきたかたちですね。

守りから攻めへ。外部環境への対応が急務に。
守りから攻めへ。外部環境への対応が急務に。

――平塚市の産業振興を成し遂げる上で、経営者の皆さんはどのような課題に直面しているのでしょう。

猪股 平塚市の産業は、自動車部品を中心とした製造業、建設業が中心です。コロナ禍における資金繰り対応がひと段落したところで、今後は主に二つの課題に直面することになります。ひとつは経営人材の確保や、事業承継をはじめとした「人の課題」。そして、もうひとつはカーボンニュートラルや再生エネルギー化といった「環境経営への取組み」ですね。大手メーカーのサプライチェーン※1に加わるためには「やらなきゃいけないこと」がとにかく多い。社会課題とされていることが、地域の中小企業にとっても現実的な課題になってきています。

齋藤 やらなければならない「宿題」が山積していますからね。今だと、「インボイス制度※2」に関する相談が殺到していますよ。デジタル化も遅れているし、何をしていいかもわからないような状況だと言っていいでしょう。一方、よい兆候として挙げられるのは、コロナ禍を機に起業が増えていること。相談窓口では対応しきれないくらい、多くの相談が寄せられていますね。飲食店をはじめ、ネイルサロンなどの美容業などが中心で、その半数が女性の起業家によるもの。そこは平塚市の大きな特徴かもしれませんね。

宇田川 確かに女性の起業は盛んになっているようですね。経営者と直接向き合っている皆さんと違って、黒子のような存在です。さらに、私たちは平塚市だけでなく、神奈川県内全域を俯瞰して見ることが多い。だからこそ、地域のニーズや現場の声を知る上で、このワーキンググループは有意義な場になっているんです。私たちが「何をやるべきか」がクリアになりますから。

山形 近年はコロナ禍や物価高騰への対応など、今ある産業を守る取り組みが中心でした。今後は脱炭素化・デジタル化をはじめとした攻めの取り組みが中心になってくると思われます。中小企業の変革に向けて、一歩を踏み出していく。その意味では、このワーキンググループが果たすべき使命は大きいと思いますよ。

  • ※1サプライチェーン=製品の原材料・部品の調達から販売に至るまでの一連の流れのこと。
  • ※2インボイス制度=軽減税率により複数の税率ができたことで、仕入税額控除を受けるためには、適格請求書(インボイス)などの保存が要件となった制度のこと。

価値創造に向けて「ありたい姿」を考える。
価値創造に向けて「ありたい姿」を考える。

――今後は「やらなければならないこと」だけでなく、新たな価値を創造していくことが求められます。その上で、皆さんは何が必要だとお考えですか。

猪股 個人的な見解ですが、「若手にチャンスを」がキーワードになってくるのではないでしょうか。平塚市には歴史のある企業が多く、経営者の皆さんがプライドを持って、経営の陣頭指揮を執ってきた。その情熱と手腕は素晴らしいものですが、一方で世代交代が上手くいっていない側面もあるんです。意欲に満ちた若者はたくさんいますし、商工会議所青年部や青年会議所の活動を見ていると、起爆剤になれるポテンシャルは十分にあると感じています。

宇田川 平塚の経営者には人の温かみがあり、横のつながりも強いと感じています。先ほど、コロナ禍を機に、起業が増えているというトピックも出ましたが、私たちが積極的に若い世代を支援し、新しい波をつくっていくことで、よい化学反応が起こるかもしれませんね。

齋藤 経営に欠かせない要素は人・モノ・金・情報。攻めに転じていくための支援を可能にするのが、私たち4者です。モノに対する支援については検討が必要ですが、それ以外の部分ではしっかりと貢献できている。さらなる情報発信によって、価値創造への流れができあがってくるのではないでしょうか。

山形 歴史ある企業はどうしても硬直化してしまうところがありますよね。でも、経営者の皆さんは一様に「やらなければいけない」「変わらなければいけない」という課題意識は持っているんですよ。大事なのは、その背中を押してあげることだと思っています。

齋藤 平塚という街のブランド価値を高めることも重要なファクターですよね。平塚で勝負するのではなく、「湘南」というワードに逃げることが多いでしょう? それでは、ここに住みたい。ここで起業したいとは思えない。

宇田川 確かにそうですね。七夕まつりは全国的にも有名ですが、もっと今ある地域の魅力を強調・発信していく必要があるのかもしれません。でも、女性の起業が増えているのだから魅力がないわけではないんですよね?

齋藤 実は平塚で起業しようとはしているけれど、住んでいるのは別の街というケースが多いんです。その点は少し寂しいデータですね。

山形 さらに統計を見てみると、平塚市は結婚・出産のタイミングで家庭に専念される女性が多いんですよね。女性の起業が増えているとはいえ、女性起業家支援や活躍し続けるための支援はまだまだ必要だと思います。ビジネスの原動力は人。ですから、女性はもちろん、高度なスキルを備えた副業人材を呼び込むための仕掛けは目下の課題だと考えています。

同じ志を持った、仲間だからできること。
同じ志を持った、仲間だからできること。

――そうした中で、ワーキンググループでは多くの施策を実現してきたと伺っています。

宇田川 情報発信には、とくに力を入れています。YouTubeの番組「中小企業DAY」への出演はその代表的な事例ですね。私たち単独では、なかなかこうした機会には恵まれません。猪股さんが人脈をフル活用してくれたおかげで実現した企画です。

齋藤 また、さまざまなセミナーを独自に開催してきた実績もあります。近々では、平塚商工会議所の主催で、経営者の皆さんに事業計画の立案・書き方を学んでいただくセミナーを開催することになっているんです。講師に招くのは、猪股さんと宇田川さん。私たちだけで完結できる取り組みは、ワーキンググループならではのもの。「予算が厳しくて……」なんてフラットに相談したところ、快諾してもらえました(笑)。

山形 ひとつ、具体的な実践例といえるのが、脱炭素化に向けた設備投資の補助金制度を立ち上げたことです。相談から支援までをワンパッケージにして提供できたのは、ここにいるメンバーの協力があったからだと思っています。おかげで平塚市のフットワークはだいぶ軽くなりましたよ。それも、歴代のワーキンググループが少しずつ変化を積み重ねてくれたからこそなんですけどね。

猪股 このワーキンググループは、組織同士の堅く、重苦しい関係性とは無縁なんです。それぞれが、平塚市を発展させるという志を持っていて、ゆるやかでフラットな関係性を築けている。地域活性化のためにゆるく語り合える仲間だからこそ、さまざまな取り組みを実現できたのだと思っています。この絆をより深めることで、世の中に注目される先進的な事例を生み出していくこと。そして、このネットワークを次代に引き継ぐこと。それが、私たちの目標です。次代を担う若きメンバーたちが、新たな価値を創造してくれることを期待しています。