M&A取り組み事例
BUSINESS

前例がなくても、
お客様の役に立つために

千葉信用金庫の職員たちは、地域に根差し、日々個人や法人のお客様の課題解決のために全力を尽くしています。その中でも令和3年に実施されたM&Aに伴う融資は、金庫内でも前例がなく、歴史に残るものとなりました。今回は最初にこの案件の相談を受けた先輩職員と、そのバトンを受け継いだ後輩職員に、当時の心境や現在考えていることなどを聞きました。

MEMBER

Y.Y
本店 営業係 本店長代理
2012年入庫

大学では国際金融論を専攻。卒業後は地元である千葉県内で大学の学びを活かせる金融関連の職に就くことを希望していた。当時は東日本大震災の直後で就職活動が厳しい状況下であったが、地域密着で地元への貢献度も高い当金庫に入庫を決めた。

R.A
誉田支店 営業係 係長
2016年入庫

都内の大学に通っていたが、地元である千葉県内での就職を考えていた。母が信用金庫を利用していたことから、信用金庫に興味を持つ。内定した金融機関のうち、当金庫が一番地元に貢献できると思い入庫を決意した。

SPECIAL SESSION

このプロジェクトの背景と概略を教えてください

Y.Y: このプロジェクトがはじまったきっかけは、私が担当していた電気工事業を営むA社からM&Aのための株式を取得する資金を融資してほしいと相談されたことがきっかけでした。

R.A: A社は千葉県内を中心に電気の小売業から委託を受けて、家電を設置して工事を行ったり、住宅メーカーから依頼を受けて太陽光発電を設置したりしている企業です。しかし、小売業からの委託業務は利幅が薄く、より利幅の大きい公共工事の受注を検討していました。

Y.Y: ちょうどその頃、神奈川県内の公共工事業を運営するB社が後継者不在で、設備や従業員をそのまま引き受けてくれる形でのM&Aによる売却を希望しており、企業の売却や買収をサポートする機能を持った組織である「M&Aセンター」に登録。M&AセンターでB社の売却情報を知ったA社はB社を買収したいと考え、M&Aに関するアドバイスが欲しいと私にご依頼があったんです。

R.A: A社は別の神奈川内の企業と取引を開始したタイミングで、神奈川県にも拠点を持ちたいと考えていましたよね。このM&Aによって、B社に所属している有資格者を確保できることもA社にとってのメリットでした。

そのような背景があったんですね。
当時お二人はどこでどのような業務をしていたのでしょうか?

Y.Y: 当時、私は木更津支店の営業係に所属し、不動産会社や建設会社などの法人融資をメインに担当していました。中堅職員として、後輩のフォローなどもしていましたね。木更津支店は本店の次に大きい支店だったこともあり、規模の大きい会社の担当を任せてもらえるようになったタイミングでした。

R.A: 私は3月までは別の支店で個人のお客様への営業をメインに担当。4月からは木更津支店に異動になり、本格的に法人の営業を担当させてもらえるようになりました。そんな中、5月にY.Y本店長代理からこの件を引き継ぎました。

Y.YさんとR.Aさんはもともと面識があったのでしょうか?

Y.Y: R.A係長と私はそれまで別の支店にいましたが、同じエリア内だったことや彼の奥さんが私と同じ支店だったこともあり、よく知っていました。

R.A: プライベートでもよく飲みに行っていましたよね。

Y.Yさんは業務を引き渡し、R.Aさんは業務を引き継ぐ形になったと思いますが、この時お二人はどのような気持ちだったのでしょうか?

Y.Y: 通常は私の代わりに木更津支店に配属となった人に引き継ぐところです。しかしA社は私にとって大事なお客様で、内容も複雑だったことから信頼できる人に任せたいと考えていました。R.A係長の個人成績はいつも上位。彼の熱意や仕事ぶりは誰もが認めていました。そんな彼なら絶対にやり遂げるだろうという信頼感があり、後任として指名させてもらいました。

R.A: Y.Y本店長代理は、私にとって憧れの存在でした。そのような方から業務を引き継ぐプレッシャーはありましたが、任せられたからにはやるしかないと覚悟を決めましたね。

今回のプロジェクトではどのようなことがハードルになりましたか?

Y.Y: 千葉信用金庫ではM&Aに伴う融資をした前例がなく、具体的に何をすればいいのかまったくわからなかったことが大変でした。大規模なプロジェクトは専門機関や銀行が窓口になることが多いんです。金庫内の担当部署にも確認したのですが、私たちのお客様が買収された事例はあっても買収した事例はなかったようで、情報が思うように集まりませんでしたね。動き方のイメージがなかなか湧きませんでした。

R.A: 金融機関では融資をする際、お客様が返済できなかった時のために保証協会に間に入ってもらいますが、今回の案件は前例がなかったため、保証協会に説明するのも大変でした。支店長と一緒に保証協会の上席の方と面談したのをよく覚えています。書類に関しても、通常であれば前任の担当者のものを見れば大抵のことはわかりますが、今回の案件は前例がなかったため、どのような書類をつくったらいいのかすらわかりませんでした。

Y.Y: 契約書を交わすタイミングがいつで、融資の稟議書をいつ作成するのかなど難しいことばかりでしたよね。また守秘義務があるのも大変でした。M&Aセンターで買収したい企業を見つけた際、その情報を外に出してはいけない決まりになっています。そのため書類のコピーなどをもらうことができず、A社からいただいた情報は、メモや記憶に留めておく他ありませんでした。そのような中でA社から聞き取りを行い、今後の方針を立てることに大変苦労しました。

Y.YさんはR.Aさんにどのタイミングで引き継いだのでしょうか?

Y.Y: 私はお客様と一緒に、買収するメリットはあるのかどうかを考えながら、社内でまわす稟議書を作成している段階で異動になってしまいました。そのため、それ以降の仕事はすべてR.A係長がやってくれました。異動になることがわかった時点で、すぐに支店長にR.A係長のフォローに入ってくれるようにお願いしましたね。

大変な案件だったようですが、R.Aさんはどのように乗り越えたのでしょうか?

R.A: 一人で抱え込まないことを意識しました。一人で抱え込んでしまうと、周りの人は私が何をしているかわからないし、私自身も苦しくなってしまうだろうと思いました。そうならないために、常に支店長に方向性を確認しながら業務を進めました。

Y.Y: できれば内部の書類を作成するくらいまでは一緒にやりたかったのですが、異動前にそこまでの時間はなかったですね。申し訳ない気持ちでいっぱいでした。担当になったばかりのお客様とこんなに複雑な案件に取り組むのは本当に大変だったと思います。

このプロジェクトで最も印象に残ったことを教えてください

Y.Y: 今までは異動があってもある程度整えたうえで後任の担当者に引き継いできたので、今回のように中途半端な状況で引き継ぐことになるとは思ってもみなかったです。また案件を別の担当者に引き継ぐ際、お客様が別の金融機関に依頼するケースもあります。そのため、当金庫がM&A成立までサポートできるのは、五分五分だと思っていました。そのような状況で、最後までやり遂げてくれたR.A係長には本当に感謝しています。

R.A: M&Aセンターから渡された書類が大変厚く、どのページを見ていいかわからず戸惑ったことが印象に残っています。また当金庫で行われていた稟議書の決済が、M&Aセンターで行われたA社とB社の契約記念式典当日までおりなかったんです。そのため、関係者から、「いつ稟議決済がおりて融資実行となるのか」と問い合わせの電話がかかってきて、苦しい気持ちだったのをよく覚えています。一方、買収するB社の代取と面談するため、支店長と一緒に片道3時間近くかけて訪問したことは、今でもいい思い出になっています。

今回の件が千葉信用金庫とお客様にもたらした価値を教えてください

Y.Y: 前例がなかったことを実行し、前例をつくれたことが価値だと思います。今までは、M&Aと聞くと専門機関や銀行での取引が思い浮かぶと思いますが、その中で当金庫を信頼してもらい、任せてもらったことは信用金庫とって大きな財産になったと思います。お客様にも会社が成長しても、長く取引できる金融機関だと思ってもらえたと思います。

R.A: やはり前例ができたことは大きいですよね。今でも同じような話があった時に、当時の書類を見せてくださいと言ってくる担当者もいます。お客様にとっても、神奈川県の会社を買収したことで有資格者を獲得できたことは大きな価値だと思います。

今回のプロジェクトを通して、ご自身が成長を実感した瞬間をお教えください

Y.Y: この経験を経て知識の土台ができたことで、今後M&Aの案件が来てもあまり動じなくなったと思います。私自身とても成長できたと感じています。

R.A: 当時は法人を担当し始めてまだ日が浅かったですが、その中で前例がないことに取り組み、最後までやり遂げられたことは自信に繋がりました。また目先のことだけではなく、企業の将来的なことを踏まえながらお客様のサポートしたことが、その後の仕事にも役立っています。

このプロジェクトを踏まえ、これからのキャリアビジョンや挑戦したいことを教えてください

Y.Y: 私も現在は本店の営業係の責任者になり、相談する立場から相談される立場になりました。これからは、部下がお客様から相談を受けている案件をよく把握し、手助けできる人間でありたいです。そして部下に安心感を持ってもらえる上司になりたいです。

R.A: 私たちは融資を通じて様々なお客様をサポートしていますが、きっと悩みがない企業経営者はいないと思います。それぞれに多様な悩みを抱えている中で、千葉信用金庫や私を選んでもらいたい。そして、その企業のベストパートナーになれるように尽力したいです。また私も相談する立場から相談される立場になりました。これからは部下たちがお客様から相談された案件を一つでも多くの支援に結び付けられるようにサポートしたいです。そして彼らにも私が味わった達成感を味わってもらいたいです。